お菓子なドラマタイズ。


 

ここで待てと言われたのです。このカカオの木の

下で───。

チョコレーテは一途な想いを胸に、キャンデールを

待ちました。カカオの実がみのる頃、このカカオの

木の下で、チョコレーテはキャンデールにその甘い

想いを打ち明けたのでした。キャンデールは感動に

打ち震え、今この時、厳格な父であるマーシュマロ

の戒めを振り払い、チョコレーテに貰った愛の実、

カカオのお返しにと、甘いお返し。テンサイから

搾り取った砂糖の飴玉をたっぷりと用意し、この愛

と美の丘に呼び出したのです。

「幼き頃からお慕い申しておりました」

数多の神々による反対を押し切り、古より伝わる

家法にも背き、その熱い想いを打ち明けたチョコ

レーテ。

「ああ、キャンデール様、、」

春うららな陽光に包まれたこの丘で。チョコレーテ

は高鳴る胸をおさえながら、キャンデールをひたと

待つのでした。

                       ❇︎

 

皆さんこんにちは、バーシエールの岡本です。

今回はドラマタイズという商法について、少しお話

しをしていきます。ところで、もうすぐホワイト

デーですね。バレンタインデーのお返しに当たる

この行事は、世界各地で親しまれているバレンタイ

ンデーとは違い、日本と、その近隣の東アジア諸国

でしか知名度がありません。それは何故でしょう

か。そう、簡単に云ってしまえば、広告が足りない

のです。バレンタインデーについては以前ここでも

お話ししたように、発祥はローマ。バレンタイン

という司祭の逸話がついて回ります。キリスト教の

中枢であるローマが発祥ともなれば、世界に拡散

される情報源としては申し分ない規模ですよね。

日本でのバレンタインデーはチョコレート会社の

ビジネスです。そして、ホワイトデーもまた、製菓

企業のビジネスに他なりません。ですが、ホワイト

デーにはキリスト教のようなバックボーンがありま

せんので、小規模な範囲にしか広がらなかったの

でしょうね。そこで、バレンタインデーの逸話の

ような、ドラマタイズビジネスが活きてくるという

訳です。ドラマタイズとは、劇にする、脚色するな

どの意味がありますが、これをビジネスにするとい

う事はつまり、ヤラセですね。その商材を売る為に

架空の物語を作り、起源というバックボーンを世間

に植え付ける、古くから存在する商法です。もちろ

んバレンタインデーも例外ではありません。ただ、

もはや古すぎて、その真偽は定かではありません

し、世間の興味も希薄です。それにそれを言い出す

と、あれもこれもでキリがなく、何が本当なのか

わからなくなります。まあ、いつの世も、欺瞞が

蔓延していたのでしょうね。嘘は一つつけば百回

つかねばならないといいますね。最初は小さな嘘で

も、長い年月を経て嘘が継承されていく事で尾ひれ

が付き、神格化していく事もなんかもあるのでしょ

うね。だが、それは悪い事だけではありません。

ドラマタイズする事によって物が売れ、経済が潤滑

に回っていけば、それは一つの真実となり、背徳的

なイメージは払拭できます。所詮、噂話に過ぎない

訳ですから。そう、すべては人の作りし神の罰。

罰を作ったのも、それを裁くのも人間です。そし

て、神でさえも人の作った偶像に他ならないので

す。人は聖書や神話を嘘だとは思いません。それ

は、何かにすがって生きていくしかないからです。

私は無信仰ではありますが、感覚的に言わせてもら

うなら、何にもすがらずに、何の指針もなく、自我

だけで生きていくのは不可能です。だからこそ皆、

心の中に神様という偶像を思い描き、信仰するので

す。少し話が逸れましたが、では、聖書や神話が嘘

にならないのなら、それはドラマタイズにならない

のでしょうか。いいえ、これは立派なドラマタイズ

になります。メディアの扇動が時には法律に触れる

事がある現代社会では、ドラマタイズは宣伝広告と

いう業態に形を変え、架空の物語を量産していま

す。聖書や神話は、その宗教のシンパを募るために

必要な教典となる訳ですから、多額の金が動きま

す。結局のところ、時代や金に対するアプローチが

異なるというだけで、これと同質ですよね。聖書は

新約と旧約でかなり内容が違います。旧約はほぼ

神々の神話に終始しているので、史実というより

は、小説に近いです。そう、この小説に近い旧約聖

書に、私が遊び半分で作った冒頭のドラマタイズを

載せてくれると、ホワイトデーももっと盛り上がる

かもしれませんね 笑

冗談です。敬虔なキリスト教、ユダヤ教徒の方々、

すみませんでした。

さて、このドラマタイズ商法。実はバー業界にも

それと噂される逸話があります。

皆さんはマルガリータというカクテルをご存知で

しょうか。テキーラをベースとした甘酸っぱいショ

ートカクテルで、ウォッカベースのソルティ・ドッ

グなどと同様に、グラスのふちに塩があしらって

あるのが特徴の、私もお客様にはよく勧める古い

カクテルです。実はこのカクテルの誕生秘話に、

ドラマタイズの嫌疑が掛けられています。マルガリ

ータとは女性の名前です。このカクテルを創作した

バーテンダーの恋人が不慮の事故で亡くなってしま

い、彼女を偲んで付けた名がマルガリータ。諸説

ありますが、この逸話が一番耳にする有名なエピソ

ードですね。しかし、私はこのエピソードでお客様

にマルガリータを勧めた事がありません。それは、

非の打ち所のないこの美談を疑っている訳ではな

く、マルガリータを湿っぽく鎮魂の酒にしてもらい

たくないからです。テキーラはメキシコの酒。情熱

的な酒です。グラスを傾け目を閉じれば、ソンブ

レロの陽気なマリアッチが熱いラテンの音楽を奏で

ます。ですから私は、マルガリータがバーテンダー

の恋人であった事しかお客様には伝えません。

もし、このカクテルをご所望するお客様がいれば、

その方には、情熱的に想う意中の誰かを思い浮かべ

て飲み干して頂きたい。そんな風に思うのです。

まあ、とにかく、この逸話がたとえドラマタイズで

あっても、私はまったく意に介しませんね。素敵じ

ゃないですか。映画やドラマと同じです。作り話で

あったとしても、人の琴線に多少なりとも触れる事

が出来れば、それ相応に感動は生まれ、酒は格別に

うまくなります。これは今回のお話の肝ですね。

バレンタインデーやホワイトデーがたとえ、ドラマ

タイズであったり、ただの企業努力の一環だとして

も。そこは皮算用を捨て去り、その時幸せな気持ち

になる事が出来ればそれで良いのです。貰ったから

返す。あるいは好きだからあげる。最も原始的で、

最もピュアです。今この時代だからこそ、よりプリ

ミティヴな恋愛を皆さんもしてみませんか。

では、また、、

 

マルガリータの逸話ついてはこちらをどうぞ。

リンク切れの場合は容赦ください。

アニメ バーテンダー第三話。