月別アーカイブ: 2020年2月

天皇誕生日。

皆さんこんにちは、バーシエールの岡本です。

2月23日(日曜日)の天皇誕生日は、19時〜

01時まで営業致します。翌2月24日(月曜日)

は、休業日になりますので、よろしくお願い致し

ます。では、また、、

奏 Kanade 〜ジャパニーズクラフトリキュール〜

皆さんこんにちは、バーシエールの岡本です。

2月も半ば過ぎ、寒いんだか、暖かいんだか、凄ま

じい温度差で日々が過ぎ去っていきますね。飲まな

いとやっていられません 笑

さて、ここ近年、日本ではクラフトブームですね。

ウイスキーやビール、ワインを始め、ジンやウォッ

カまでと、着々とその幅を広げています。ただ、

正直、クラフトを付ければ何でもよくなってきてい

る感がありますよね。それと、勘違いしてはならな

いのが、クラフトとは、国産という意味ではないと

いうこと。クラフトとは、簡単に云うと手作りの

製品という意味合いがあります。そう、国産といえ

ば、常日頃思うのが、国産の物に愛着や安心感を

感じるのはわかります。しかし、国産であっても

日本人の口に合わない物はありますし、衛生面でも

同じことがいえると思います。私としては、良い物

は良いとしたいので、国産だとか、クラフトという

言葉の魔力に惑わされずに、その本質と潮流を見極

める努力をしているつもりです。まあ、つもりです

から、よく空回りますけどね 笑

前述した通り、クラフトとは手作り製品の事です。

これって、この流れがやってくる前から当たり前の

ようにやってきた職人さんたちに失礼ですけどね。

クラフト、クラフトって、枕詞のように出回って

ますけど、どの分野でもいえることは、当たり前で

あるということ。量産化が進み、ラインに乗って

しまえば品質は落ちます。これも当たり前。ただ、

言霊って凄いですよね。当たり前に名前が付くと、

途端に本格派としてカテゴライズされます。

ですが、さんざっぱらに貶しておいて、この度、

当店にもクラフトがやって参りました 笑

タイトルや画像にもあるように、奏(かなで)とい

う、サントリーが開発したジャパニーズクラフト

リキュールです。そもそも、この手の和素材リキュ

ールは今まで、ドーバー洋酒貿易会社という酒造

メーカーの独壇場でした。

このラベルをバーやデパートのお酒売り場で見かけ

た事がある方も少なくないはずです。和素材リキュ

ールという分野では、草分け的、且つ、唯一無二の

存在でした。サントリーのヘルメスというリキュー

ルシリーズもありましたが、力の入れようが違う印

象でしたね。

実はこの奏というリキュール。開発に携わった方か

ら製造の進捗状況を聞きかじっていた事もあり、

興味がありましたので、サンプルで味の方は確認

していました。ファーストリリースで、柚、抹茶、

白桃。少し遅れて桜が加わったので、現段階では

4種類になりますね。これ、本当に美味しいです

よ。欲を言えば、抹茶にもう少し強めの香りが欲し

いところ。それでも開発者の手作り感がきちんと

伝わってくる、クラフトの名に恥じない酒だと私は

思います。当店でも、ショート・カクテルやロン

グ・カクテル。ロック・スタイルにワインを使った

キール・スタイルなど、様々なスタイルのカクテル

を用意しておりますので、是非お試しになってくだ

さい。では、また、、

 

 

恋と酒場とオキ・シロー。恋愛編。

───女は冷たいギムレットをそっと傾けた。

ジンの混じり合ったライム果汁の酸味が口いっぱい

に広がり、やがて冷たくのどを刺激しながら流れ落

ちていく───。

ああ、やはりちょっと酸っぱすぎる。わたしには

ライムの酸味がきつすぎる。

───そういえば彼、ここのギムレットに似てい

る。刺激的で、鋭角的で、、、、、、。それに、こ

のフレッシュ・ライムのように、活きがよくて若

い。女は酸味のきついギムレットをすすり

ながら、男の健康そうな白い歯並びを思い出して

いた───。

皆さんこんにちは、バーシエールの岡本です。

冒頭からいきなり引用させて頂きましたが、今回は

オキ・シローという、主に80年代半ばから90年

代初頭にご活躍なさった、掌編小説作家のお話を

していきます。

語り継いでいかなけれなならない。私にとって、

常日頃そう思っていた作家の一人です。バー業界に

長く携わっている人間ならば、一度は耳にした事が

ある、著名な作家の一人ではないでしょうか。

オキさんを一言で云うならば、机上のバーテンダ

ー。これほどバーに終始した小説を書いた作家は

後にも先にもおりません。酒、主に洋酒が多く登場

する小説はいくつもあります。『老人と海』の文豪

アーネスト・ヘミングウェイを始め、やはりハード

ボイルドとの相性が良く、『ロング・グッドバイ』

のレイモンド・チャンドラーや、ボンドマティーニ

を世に広めた『007シリーズ』。国内ですと、

北方謙三氏の『ブラディ・ドールシリーズ』が有名

でしょうか。どれも素晴らしい作品で、やはりそこ

に登場したウイスキーやカクテルはバーでも人気が

高いですよね。これに対して、オキさんの作品は

カクテルが主で、それぞれのカクテルにストーリー

を当てて物語を構築していきます。つまり、物語の

中に酒が登場するというよりは、酒を中心に物語が

作られているのです。出版されている作品の中には

エッセイ集などもありますが、やはりオキさんと

いえば、カクテル・ストーリー。粋でお洒落な主人

公達が、一つのカクテルを中心に酩酊し、泣いて

笑って、時には踊ります 笑

私がオキさんの作品と出会ったのは、92年の夏。

バイト感覚から脱却し、ちょうどこの仕事に本腰を

入れた年でした。先輩のバーテンダーから薦められ

た作品は『紐育のドライ・マティーニ』。紐育は

ニューヨークと読みます。ここから読み漁り、ほぼ

作品は網羅いたしました。その当時は私もバージャ

ンキーを自負しており、様々なスタイルのバーを

見て回っておりましたので、オキさんの作品は格好

の触媒となった訳です。まあ、もれなく大虎武勇伝

もついて回りましたけど 笑 失敗の数だけ成長

出来ると頑なに信じて日々精進しておりました。

前述でも触れた通り、オキさんの物語はカクテルが

中心です。ある意味専売特許ではあったものの、

やはり偏った読者にしか需要がありませんので、

その知名度にも限界があり、現在では絶版になっ

てしまっている作品がほとんどです。ですが、趣味

嗜好に関しては、良いものは良い。時代や売れ筋な

ど関係ないが私の信条ですから、カクテルに興味が

あり、読書に免疫があるお客様には未だに薦めて

います。

作風としては、やはりカクテル・ストーリーですか

ら、そのカクテルのイメージをなぞらえた内容が

ほとんどです。ただ、やはりバーが好きなんですよ

ね、オキさんは。バーテンダーとのやりとりや、

酒場によくあるシーンから、独自の解釈で織り成す

ストーリーが抜群に面白いです。舞台は様々で、

海を渡る事も頻繁にありますので、海外でカクテル

を飲んでいる気分にもさせてくれます。唯一こだわ

っている点は、バーが舞台である事。漫画。孤独の

グルメの飲食店のように、必ずバーが登場します。

実在するバーをモデルにしたのがほとんどであった

のでしょうが、ご想像の中だけの舞台もあったはず

です。前回ご紹介したハートカクテルのわたせ

せいぞうさんと同様に、この方もまた、耽美の

求道者であったのでしょうね。現在のように手元に

ネットワークが携帯出来る世の中ではありませんで

したが、そもそも前職がメンズマガジンのチーフ

エディターですから、巷のトレンド情報や持ちネタ

には困らなかったはずです。でも私、バーのトレ

ンドって未だに何だかわかっていませんが、オキ

さんの作品には、不変の格好良さや、色気を感じ

ます。時代の最先端をいく業界にいながらも不変を

貫ける人って貴重ですよね。そういう方達がいない

と、とかく流されっぱなしの世の中ですから。

さて、ここで、オキ・シローの作品の中から私の

独断でチョイスした珠玉のストーリーをいくつか

ご紹介致します。ただし、今回はバレンタインデー

前という事もあり、主に色恋沙汰に偏重する形で

選びました。

『ギムレットの海』ギムレットの海に収録。

冒頭の引用先のストーリーです。舞台は日本。逗子

か葉山あたりの海辺でしょうか。結婚とは縁遠い

女性が、年下の男性に、同棲をするだけでも、と

決断を迫られます。彼女は、不慮の事故で亡くなり

過去に関係のあった、年上で懐の深い男性と、現在

付き合いのある若く血気のあるその男性とを、ギム

レットの酸味に例えて比べ、苦悩します。ギムレッ

トとはジンとライム果汁のショートカクテルです

が、そもそもライムが日本に入ってきていない時代

にはライムシロップで代用していました。その頃の

名残で、甘味のあるギムレットと、現在の主流で

ある酸味の強いギムレットが新旧一体となって、

今でもバーテンダーのさじ加減を試される悩みの

種となっています。男に媚びない魅力を持ち合わせ

た女性ですが、好みのタイプはきっと、飲みやすい

甘味のあるギムレットですね。けれども、切れ味が

良く、真っすぐにぶつかってくる酸味の強いギムレ

ットも彼女にとっては捨てがたいのでしょう。沖釣

りに興じていた男が、彼女からの最後の返事を求め

て海から戻ってきます。彼女は果たして、どちらの

ギムレットを選ぶのでしょうか。

カクテルを擬人化させてここまで綺麗にまとめる

あたりがオキさんらしいです。死別しているから

こそ塗り替えられない過去の男との思い出。年齢差

も手伝って、今の男よりもずっと良物件に思えるの

でしょうね。ですが、押しに弱い彼女はぐいぐい

と攻めてくる行動力がある若い男にも惹かれている

はずです。思い出に生きるのか、今を生きるのか。

主人公の機微を具に描いた、オキ・シローの代表作

の一つです。

『アレキサンダーにご用心』

ギムレットの海に収録。

これはもう大好きですね 笑 バレンタインという

事もあり、チョコレートの原料である、カカオの

リキュールを使ったアレキサンダーというカクテル

のストーリーを選びました。

とあるバーにて、そもそも主人公である男が教えた

アレキサンダーというカクテルを、他の男の隣で

勢いよく呑み上げるヒロインがいます。彼女はプロ

のダンサーで、酒にはあまり強くなく、気を利かせ

た主人公の男が、このカクテルなら甘くて飲みやす

いだろうと薦めたカクテルでした。彼女はいたく

気に入った様子で、景気良くアレキサンダーを注文

していきますが、その場に居合わせた主人公も

含め、そのバーの常連客は皆知っています。その後

に彼女が起こす奇行を。そう。彼女は三杯目のアレ

キサンダーを空けると決まって踊り出すのです。

待ってましたという常連客の歓声の中、やおら立ち

上がってしなを作り、着ていた上着をなまめかしく

隣の男へ放り投げると、いつもの決め台詞。

「マスター。ハーレムノクターンをお願い。サム

・テイラーのサックスで!」

これには痺れます。アレキサンダーといえば、60

年代のアメリカ映画に、ジャック・レモン主演の

『酒とバラの日々』という、アルコール中毒の話を

描いた救いようのない映画があるのですが、バー

業界にいるとこの映画が容易に想起されます。この

映画でも同じ理由で女性にアレキサンダーを薦める

ので、このストーリーは酒とバラの日々のオマージ

ュになるのかもしれませんね。まあ、とにかく

ヒロインの女性が魅力的です。劇中では確か、大き

な舞台のオーディションに立て続けに落ちて、ムシ

ャクシャしていたはずなので、過度なアルコール摂

取で、文字通り劇的に解放されたのでしょうね 笑

アレキサンダーで一杯毎に覚醒していく描写がとて

も秀逸で、元々このカクテルを薦めた主人公が、こ

の女性を落としきれなかった理由と共に、爆弾が

爆発するまでのカウントダウンを見ているようで

とても愉快に思いました。アレキサンダーはブラン

デーがベースになっていて、その口当たりの良さと

は裏腹に、強めの、大人のデザートカクテルですか

らね。まさに、アレキサンダーにご用心 笑

ハーレムノクターンを知らない方は是非聴いてみて

下さい。雰囲気が伝わると思います。世代によりけ

りですが、はっきり言ってしまえば、日本では

ザ・ドリフターズの加藤茶さんですかね 笑

『アメリカーノの女』

雨の日のチェリー・ブロッサムに収録。

この頃のオキさんの作品は比較的泥臭いストーリー

が多いと思います。基本、オキさんの作品は、一人

称、もしくは三人称一視点で描かれています。掌編

小説という事もあり、登場人物は、彼、彼女、男、

女、マスターなどと呼称されていますが、80年代

半ばあたりの作品の登場人物には名前があてがわれ

ており、さしずめメロドラマのような仕上がりか

と思います。この作品もやはり、メロドラマ臭が

ぷんぷん匂ってきますが、私、嫌いじゃないんです

よね、メロドラマ 笑 恥ずかしながら、初見で

この作品を読んだ時、不覚にも涙腺が脈打ちまし

た 笑 涙こそ出ませんが、胸が熱くなりました

ね。

主人公は八木という男。舞台は東京です。濠端の桜

が一望出来るホテルのバーで、彼はアメリカーノと

いうカクテルを注文します。これは待ち合わせを

している相手、悠子の好きなカクテルです。彼らは

同郷である釧路の高校の先輩と後輩という関係。

悠子は二つ下の後輩でした。それから数年後、八木

は上京した際に、東京に就職した悠子に偶然出くわ

します。勤めは釧路でしたが、月に一度の割合で、

上京した時には必ず悠子に連絡し、同郷の好しみで

酒を酌み交わす仲になりました。それから一年。

この日、八木はある決心をして上京したのです。

待ち合わせに遅れてきた悠子は、今切ってきたと、

長かった髪を、高校時代のように短く切って現れ、

八木を驚かせます。前日、いつも待ち合わせをして

いたホテルではなく、別のホテルにしたと伝えた

が、何故だかためらっている様子だった。そして

待ち合わせに遅れてきたかと思えば、何の前触れも

なく髪を切ってきた悠子に、八木は不信感を抱き

始めます。そこで現れたのが、悠子が勤める広告代

理店の取引先である宝石店社長の野田という男。

八木がこのホテルに宿泊すると知った野田は、いや

らしい目で悠子をねめ回し、このホテルにはよく

泊まると、悠子を八木の前で辱しめます。奥に居る

からあとで声を掛けなさい、送っていくからと、

その場を去っていく野田。沈みきった二人の空気を

振り払うように、八木は悠子に、髪型が高校時代の

時のようだね、と昔を懐かしむように話題を変えて

話し掛けます。すると悠子は、あの頃は校則でああ

するしかなかったと、いじましく泣き笑うような

顔でそれにこたえます。その表情を見て、八木は

改めて決心するのです。ポケットに忍ばせてある、

箱詰めにされた指輪を握り締めて。

このストーリーで私が気になったのは、八木と悠子

がプラトニックな関係であったのか否か。という

点ですね。それによって、ラストシーンの悠子の

泣き笑いの印象がかなり変わってきます。どちらに

せよ、悠子は八木と野田を会わせたくはなかった

はずですが、八木とも体を重ねていたのなら、最後

の表情は二股女の乱心です。まあ、私はプラトニッ

クであったと信じたいので、前向きに考察しました

けどね。悠子と野田の関係は、明らかに歪んだもの

で、悠子にとっては汚点なのでしょう。作中で悠子

は釧路にはもちろん帰りたい、そろそろトシだし

ね、とこぼしていた事から、八木は添い遂げる決心

を固めたのです。いずれにしても、プラトニックで

あろうがなかろうが、目の前で辱められた女性に

対し、決心を緩めなかった八木は立派な男ですね。

こういったタイプの男性はあまりオキさんの作品に

は登場しないので、嬉しい裏切りでした。それと

付け加えるなら、アメリカーノというカクテルは

カンパリをベースにスウィートベルモットを加え、

ソーダで割るカクテルで、昔からお客様にも薦める

好きなカクテルですが、このストーリーは正直、

桜に近しい色合いという以外、アメリカーノである

必要がないですね 笑 まあ、だからといって別の

カクテルでいいって訳でもないのですけどね。アメ

リカーノはオキさんの他作品にも使われています。

きっとご自身のお気に入りなのでしょうね。

 

今回もまた長々と書き連ねましたが、オキ・シロー

の作品はまだまだたくさんあります。もちろん

恋愛テイストのストーリーだけではなく、オキ・

シローならではのペーソスを盛り込んだ掌編浪漫譚

は、令和の時代でも十二分に愉しめます。押し並

べて、薦めたお客様の面々が述べる感想は、とに

かくカクテルが飲みたくなる。ですね 笑 私も

そうでした。皆さんも是非、ご自分のカクテル・

ストーリーを見つけてください。

では、また、、