日別アーカイブ: 2021年3月28日

二十周年という事で。

 

皆さんこんにちは、バーシエールの岡本です。

昨年の緊急事態宣言から、あと半月もすれば

一年となりますね。何というか、初めての

事が多過ぎて戸惑うばかりの一年でした。

ともあれ、完全な形ではないものの、当店も

4月2日で二十周年を迎える運びとなりました。

昨年、十九周年のブログで弱音を吐いていた

頃がまだ記憶に新しいです。そこからの一年は

のらりくらりで虚な日々でしたけれど、20

01年にひっそりと産声を上げたあの日から

もう20年も経つのですね。他のお店の方の

心情や事情はわかりませんが、私にとっては

大変な偉業です 笑 何せ飽きっぽいですから。

よくぞここまでといったところでしょうか。

順風満帆とは無縁の人生を歩んできた私にとっ

て、一つの事をここまでやり続けた自分自身に

驚嘆するとともに、このあたりで少しだけ

賛辞を与えてあげたいのです。よくやったと。

2001年という年は、日本経済にとって

最悪の年になると、当時云われていました。

店の開店準備をしている間も沢山の方達に

応援していただきましたが、出会った方達は

口を揃えて言ったものです。まあ、若いから、

ここで失敗しても後があるよね、と。こんな

立派な一枚板のカウンターをこしらえて、

やめるときにはどう処分するのか、とか。

応援するいう体面とは裏腹に、様々な方面

から歯に衣着せぬ辛辣な言葉で罵られました。

まあ、それだけ経済は傾いていましたからね。

老婆心も芽生えるというものです。そこは当時

の私も真摯に受け止めて、そんなに長く続ける

つもりはありませんので、と軽くいなしていま

した。これは本心でもあったのですが、今と

なってみれば、わからないものですね。

この20年を振り返って、印象に残っている

事柄は山ほどありますけれど、経済的なダメージ

を受けていた出来事はやはり強く覚えています。

まず思い浮かぶのは、オリンピックにFIFAワール

ドカップ。日本人の活躍を期待する気持ちとは

別に、暗澹と恨めしく思うのです。スポーツの

テレビ観戦はテレビを置かない我々のような

業態には悪影響しかもたらしません。特に

2002年のワールドカップは日韓共催とは

いえ、自国開催でしたからね。辛かった思い

出しかありません 笑 そして2008年の

リーマンショック。このあたりから領収書を

切っていくお客様が激減しました。私、会社

のお金で飲食した経験がないので、急に自腹

で飲み始めたお客様の態度を目にして、言い

ようのない危機感を煽られたものです。ただ、

この時の経済危機は経済のヒエラルキーでい

えば上方部が瓦解しただけで、我々のような

市井の民衆に体感はなかったかもしれません。

気がついたら収束。と、思っていたら、20

11年に東日本大震災が発生し、経済どころ

か、日常生活が脅かされました。3月11日。

この日は物心両面で冷え込む2月を経て、長

いトンネルを抜け、期待の高まった金曜日でし

た。被害の少なかった当店は店を開けて帰宅難

民を期待しましたが、当店の場合、固定電話を

借りにきた数人のみの来店。早めに切り上げれ

ば良かったものを、意地になって朝まで一人で

過ごしました。そしてこの年、当店は十周年を

迎えたのです。

150人ものお客様に集まっていただき、広い

高層階のレストランを貸し切ってのパーティー

でした。周年は4月なのですが、震災があった

ため、自粛も兼ねて5月に繰り越しての開催

となり、何よりも先に震災の被害者に向けて

黙祷を捧げた事から始まったパーティーでした

ね。司会やBGM、動画の撮影や受付に、ピアノ

やバイオリンによる生演奏も。全てお客様に

手伝っていただきました。今でも思いますが、

あれで良かったのです。主役は私ではなく、

通い続け、店を作り上げてきたお客様一人

一人ですからね。幸い楽しそうにこなしてい

たので心配はしていませんでしたが、、笑

この十周年を機に、お店に来られなくなって

しまったお客様も沢山います。何か区切りの

ようなものを感じてしまったのでしょうね。

しかし、このパーティーは私にとって一生の

思い出となりました。10年経った今、改め

てお礼をさせてください。ありがとうござい

ました。

ここからの10年は本当にあっという間です。

もちろん、細々と営む当店に楽な道などありま

せんでしたから、毎日、毎月、毎年を必死に

こなしてきました。一番の変化はお客様の世代

交代でしょうか。長く続けていけば、通うお客

様の人生にも動きが出てきます。これは避ける

事の出来ない問題で、どうしても、年月の経過

と共に疎遠になっていきますよね。しかし、

それはそれとして、古参の方も大切ですが、

今は新しい世代の若いお客様とも楽しく相手を

させていただいています。年齢的に、一回りや

二回りは当たり前なので、ついていけているか

は疑問ですが、、笑

私がバーという、日本では異色の酒場に夢中

になった頃のように、今一番元気な世代に繋い

でいけるよう、これからも努めて参ります。

この度、二十周年を記念して用意した当店の

ロゴが刻印されたステンレスタンブラーです。

テニス仲間の会社にお願いして作っていただ

きました。本来、こういった記念品は極力作

らない主義なのですが、このご時世で何も

催し物を開く事が出来ませんので、思い切って

挑戦しました。

刻印はあまり目立ちませんので、ご自宅用

にいかがでしょうか。タンブラーではありま

すが、花器としても使えると思います。あま

り数はなく、先着順ではありますが、通って

いただいたお客様にはもれなく差し上げます

ので、是非声を掛けてください。

さて、今回は二十周年のご挨拶と、極めて

恣意的に懐古の旅をさせていただきました。

ただの愚痴ですけどね 笑

上記の画像はその名の通りの本。ノンフィク

ションものです。20年以上前、私が店を始め

るに当たって、叔父が寄贈してくれた本です。

著者は故海老沢泰久さん。1994年に、F1

チームのメンバーに選ばれた男の充実した人

生を描いた『帰郷』で第111回直木賞を受賞

したノンフィクション作家です。こちらの作

品の第一章のタイトルが、バーテンダーはファ

ーザーたれ。何か想像出来ませんか。ここから

先の重苦しく、堅苦しい感じが。残念ながら

私はこの作品に未だ目を通していません。

自宅の隅で堅く時を刻んでいます。何でしょう。

当時から叔父の意図するものは感じられました

が、そもそもが違うのです。バーテンダーとは、

酒と人とを繋ぐただの触媒です。それを父親

だとか、神様だとか通俗的に過ぎるし、不遜に

も程がある。そんな取り上げ方をするから、

ドラマのような演出を気取るお客様が後を絶た

ない。バーもれっきとした飲食店なのです。

もっと自然に、気負い過ぎず、軽妙洒脱にバー

ライフを楽しんでいただきたい。もちろんマナ

ーは必要ですが、バーを日常にするというの

はきっと、才をてらうのではなく、より良い

明日を迎えるためだと、20年経った今も、

私はそう思います。

では、また、、