皆さんこんにちは、バー シエールの岡本です。
皆さん、『プロメテウスの火』。という言葉を
ご存知でしょうか。プロメテウスとは、古代
ギリシア神話に登場する男神で、人間を創造し
、天界の火を盗んで人類に与えたとされる神
です。『プロメテウスの火』とは、まさにその
天界から盗んだ火を指します。天界の火を与え
られた人類は争うことを覚え、欲し、殺し、
奪い合い、発展を繰り返して富と名声を手に
入れてゆくのです。そしてこのような神話に
なぞらえて、現代では、科学者の発明の成果
に対してプロメテウスの名を使うことがしば
しば見受けられます。それが、『プロメテウス
の火』なのです。
2024年のアカデミー賞を日本の作品が
二作品受賞しましたね。長編アニメ部門で
スタジオジプリの『君たちはどう生きるか』
。視覚効果賞に『ゴジラ−1.0』とまさに
快挙。どちらも視聴しましたが素晴らしい
出来栄え、素晴らしい作品でした。そして
2024年。最多7部門を制覇して頂点へと
のぼり詰めた作品が、今回テーマにした
『オッペンハイマー』という作品です。
オッペンハイマーはアメリカ合衆国の映画
です。簡単に言ってしまえば、マッドサイ
エンティストのよくある映画なのですが、
これが原爆を発明した伝記物となれば、
話は大分変わってきます。もちろん日本での
公開はかなり遅れました。それはそうでしょ
う。これがすんなり公開されては、世界唯一
の被爆国である我々日本人は立つ瀬がありま
せん。映画オッペンハイマーとは、“原爆の父〟
と呼ばれる物理学者。J・ロバート・オッペン
ハイマーの半生を描いた伝記映画なのです。
日米間での戦争映画や諸々のメディアは数
あれど、エンターテイメントという枠を使い、
世界規模でここまで直截的にフォーカスして
こられると、怒りや悲しみというより、戸惑
いしかありませんよね。ましてや空前の大ヒット
となっているわけですから。
こちらは映画のヒットと共に、Xで物議を醸し
出した問題の画像です。昨年同時期にヒットし
た米国のコメディ映画。『バービー』の主人公で
ある役者が、オッペンハイマーと思しき人物の
肩に乗ってはしゃいでいます。これは配給会社
である米ワーナーブラザーズが悪ノリして
作成した画像です。米国ならではの遊び心は
いつものことではありますが、原爆を軽視
しているとして炎上し、配給会社側からただ
ちに謝罪声明が出されて、投稿は削除され
ました。しかし、どうしてこうなるのでしょ
うねぇ、、重苦しい空気を軽くしようとした
のか、ただ浮かれただけなのか。いずれに
しても、原爆における認識の温度差がまた
露見したかたちとなりました。
『E=mc² 』。原爆は特殊相対性理論に
端を発しています。相対性理論といえば、アル
ベルト・アインシュタインですよね。本作の
劇中にも登場しますが、物語の。いや、世界の
キーパーソンであったアインシュタインは、
科学者特有の重責に懊悩します。原子爆弾。
これこそが『プロメテウスの火』であると。
大戦中、ドイツとの科学競争が熾烈を極める中
、人づてにドイツの原子爆弾の進捗状況を知っ
たアインシュタインは、時の米国大統領であっ
たフランクリン・ルーズベルトへと書簡を送り
ます。その内容は、ドイツが近いうちに強力な
爆弾を製造するであろうということと、早急に
原子爆弾の開発を進めるべきだという、注意
喚起だったのです。この手紙を機に、原爆製造
を具現化したマンハッタン計画は始まりました。
ユダヤの血筋をもつドイツ人で、米国へ亡命した
立場であったアインシュタインは危険分子と
みなされ、この計画への参加は許されません
でした。そうなのです。アインシュタインは
原爆製造には関わっていなかったのです。それ
を引き継ぐようにしてマンハッタン計画の陣頭
指揮を執ったのが、本作の主人公である、オッ
ペンハイマーでした。画像はこの二人のもの
です。プリンストン高等研究所研のものでし
ょうか。オッペンハイマーは量子力学に傾倒
しており、それに批判的であったアインシュ
タインではあったものの、二人は友人関係に
あったようですね。
1945年。8月6日。次いで8月9日に、
原子爆弾が広島と長崎に投下され、歴史に残る
甚大な被害を伴って世界大戦は幕を下ろしま
した。しかし後にドイツは原子爆弾を製造して
いなかったことがわかります。それを知った
アインシュタインは自責の念に苛まれ、「ドイ
ツの原子爆弾が成功しないとわかっていれば、
私は指一本動かさなかっただろう」と嘆き、
ルーズベルト大統領へ書簡を送ったことを
悔やんで、『私の人生で唯一の大きな誤り』と
後悔の言葉を世に残しています。科学者が陥る
負の感情の坩堝。天才であればあるほどその
苦しみも増すのでしょうか。これはマンハッ
タン計画から原爆投下までを牽引してきた
オッペンハイマーにもいえるのでしょうね。
慧眼にして盲目であった科学者たち。もちろん
その国の舵取りは時の長が務めます。しかし
水面下ではこのようにして、科学者たちの暗躍
が目立ちます。それは時に、彼らが下命された
義務感とは別のように思えるのです。そう。
それは、強い承認欲求がもたらすエゴイズム。
彼らは〝やりたかった〟のです。〝みせたかっ
た〟のです。〝わからせたかった〟のです。
彼らの頭脳が具現化した兵器は世界を席巻し、
冷戦の礎となり、その脅威は現在まで続いて
います。善悪はそれを用いる者の心の中にあり。
どこかの文献で見たことがあるようなこの言い
回しは、科学者が保身のために使う体の良い
免罪符です。進歩とは何か。それは高次元で
あればあるほど、より堅牢なリスクヘッジが
必要となります。テクノロジーは生活を豊か
にしますが、使いどころを誤れば、自傷行為
になりかねないのです。現在でも戦争は内紛
も含め、世界各地で起きています。『プロメ
テウスの火』を手に入れた人類は争うことを
やめられません。ならばせめて、ここに闘争
心にも勝る強い倫理観を介在させて欲しい
ものです。
さて、こちらは1954年に公開された
東宝の映画。初代ゴジラです。前出の『ゴジ
ラ−1.0』や、2016年に公開された
『シン・ゴジラ』はこの作品を強く意識して
制作されました。では、ここで何故初代ゴジ
ラなのかというと、オッペンハイマーとは
遠からずとも縁があるのです。それはやはり
核。初代ゴジラは深海底で眠っていた古代
恐竜が、水爆実験の影響で突然変異を起こし
たというところから始まる物語です。終戦は
1945年。この映画の公開は1954年で
す。なんと原子爆弾の投下から、たった9年
で核を扱った映画を日本は制作、完成させた
のです。確かにこの頃の日本は復興に湧いて
いる時代でした。1964年には東京オリ
ンピックを開催。東京タワーも333メートル
の高さを僅か一年半で完成させ、まさに破竹の
勢いで復興への道のりを歩んでいました。
初代ゴジラの誕生には、実際に起きた水爆実験
での被曝事故が関係しています。ビキニ環礁で
の第五福竜丸事件。日本の漁船が米国の水爆
実験に巻き込まれ、乗組員が被爆死したこの
事件が起きた日が、1954年3月1日になり
ます。この事件をきっかけに初代ゴジラの制作
が始まり、映画の公開が同年の11月3日に
なりますので、原爆投下からは9年経っていま
すが、実質8ヶ月という短い期間で初代ゴジラ
は公開されたのです。まあ、このエピソードは
新しいゴジラが制作される度に取り沙汰されて
おりますので、ここで特筆することではないの
ですが、私が何を言いたいのかというと、エン
ターテイメントの枠で先に核に触れたのは、
我々日本人なのです。もちろん、戦争の敗戦国
となったわけですから、政治や国力で抵抗
することは、今も昔も出来なかったでしょう。
だからせめて映画で訴えようと。また。復興の
足掛かりとしてエンターテイメントという側面
からも盛り上げていこうという、当時の東宝の
気運の高まりも、様々なメディアで拝見して
おります。ですがやはり、最初にエンターテ
イメント枠を使ったのは我々ですから、いくら
史実であり、戦争であっても。禁断の兵器を
使い、気が遠くなるほど量産した人々の死を
、エンターテイメントを使って金に変えるな
どと、という風に、一方的に批判するという
のも、私は違和感を禁じ得ません。立ち位置
によってまったく捉え方が違う映画だと思う
ので。
さて、最後になりますが、映画オッペンハイマ
ーには原爆投下の凄惨な描写はいっさい組み込
まれていません。それでも、日本、広島、長崎
というワードが聞こえてくる度に、胸が潰れる
思いではありました。ですが、これは戦争
映画なのです。映画の内容とは別に、配給
会社の悪ふざけはあったものの。この痛ましい
世界大戦の有り様を風化させないためにも、
より多くの人々が視聴すべきであると私は
思います。
では、また、、
劇中に登場したカクテル。オッペンハイマー
のマティーニです。実際に存在したレシピらし
いですよ。ハチミツにライムジュースを混ぜた
液体にグラスリップを浸し、マティーニを注ぎ
ます。当店では、ライム果汁とハチミツをグラス
リップにリンスしてお出しします。我々から
してみれば仇敵の好物にはなりますが、残念
ながら美味しいです。気軽に声を掛けてくださ
い。