皆さんこんにちは、バーシエールの岡本です。
陽気はすっかりと秋めいて、過ごしやすい
日々が続いています。いかがお過ごしでしょ
うか。さて、今回は私が昔からお世話になっ
ている東京は浅草にある老舗のグラス工房、
創吉さんをご紹介致します。まあ、私がお
世話になっているというより、ここは東京
中、延いては日本中のバーテンダーの御用達
となっている、超の付く有名店です。
私が店のグラスを仕入れる先は大きく分けて
三つ。一つはインターネットによる通販。
これには仕入れ先の特定など無く、同じ物を
再度購入する際になるべく好条件で購入する
為に隈なく調べます。二つ目は今回のように
卸問屋を見て回り、直接手に取って購入する
方法。そして三つ目は行きずりの雑貨店や
アンティークショップですね。これ、衝動
買い以外の何ものでもないのですが、存外
に良い結果をもたらします。ただ、運命と
いうドラマ性を背負っている分、割れて
しまった時のショックは計り知れません
が、、。
店内にはグラスの他にシェイカーやメジ
ャーカップなど、バーツールのライン
ナップも充実しています。
問屋ならではの種々雑多な風景。毎度の事
ながら惹き込まれます。
?
アンティーク調のキャビネットの中には
クリスタルガラスのグラスにソムリエ
ナイフ。その他諸々の調度品が所狭しと
ひしめき合っています。上段の方に見える
色付きのグラスは江戸切子によるもの
ですね。創吉さんは切子技法の体験も
出来ますので、ご興味のある方は体験
なさってみては如何でしょうか。
そして今回、創吉さんにお邪魔したのは、
グラスを仕入れる為だけではありません。
創吉さんは江戸切子の体験教室を営むく
らいですから、ガラスのエッチングや研磨
作業などはお手の物。ここはグラスの販売
の他に、修復作業もしてもらえるのです。
ひび割れも一番深く入った部分まで削って
しまっても構わないのであれば、グラスの
形状はかなり変わってしまいますが、修復
可能です。今回私が持ち込んだのはカクテ
ルグラスが一つに、オールドフッションド
グラスが一つ。どちらもグラスリップが少
し欠けた程度だったので、迷う事なく
お願いしました。これまでに幾つ修復して
もらったのか細かい数字は覚えていません
が、二桁は軽く越えているかと思われます。
きっちり仕上げてもらえるので重宝して
ます。ありがたい事ですね。仕上がり時間
は三、四週間と少し時間は掛かりますが、
我々にとってグラスは商品を際立たせる
最後の仕上げです。考え方は様々ですが、
気に入ったグラスをちょっとしたミスで
破損させてしまわれた場合、特に同業者
の方、ゴミ箱に捨てる前に今一度考え直
してみませんか。我々とバーツールは一本
の生命線で繋がっています。おざなりに
してはいけません。確かに割れたらまた次、
も悪くはないです。壊れた物に未練たらし
く執着するのは私も好きではありません。
さりとて、一度は気に入って仕入れた
グラスです。きっとそのグラスに合わせた
カクテルやお客様。そのお客様の嬉々として
喜ぶ笑顔まで思い浮かべてチョイスした
はずです。その気持ちが大切であり、尊い
のです。是非直せるものは直して、今後の
営業の糧として下さい。
さて、ここで店のバーツールを一部ご紹介
致します。こちらはシェイカーの面々。
正面右側二つの小さなシェイカーはショート
カクテルと一部のロングカクテルに使います。
中央二つは、これも一部のロングカクテルと
ショートカクテルの二杯分。一番左はショー
トカクテルと一部のロングカクテル三杯分用
になります。シェイカーは液体の量によっ
て大きさを変えていかないと中で氷が浮い
て溶けるのが早くなりますから、仕上がり
が水っぽくなってしまいます。お気に入り
は左から二番目のシェイカーですが、使い
勝手がどうにも悪く、今となっては一番使わ
ないシェイカーとなってしまいました 笑
もはやカウンターを彩るオーナメントに成り
果てています。
ボストンシェイカーですね。
合わせるとこうなります。
私が店を始めてから、メイキングという
局面の営業スタイルに一番の変化をもたら
したのがこのシェイカーの存在です。そも
そもがフレアバーテンダーという、パフォー
マンス性の強いバーテンダーが使う代物で、
我々の様な業態では中々使わない飛び道具
ですね。フレアバーテンダーとは、80年
代にトム・クルーズが主演のカクテルとい
う映画がありましたが、主人公がパフォー
マーとして成り上がっていく職業がフレア
バーテンダーでした。バーをエンターテイ
ンメントするとこうなるの代表格でしょう
か。日本でもよく飲まれているレッドアイ
という、ビアカクテルを世に広めたのもこ
の映画でしたね。さておき、この、一介の
バーテンダーには飛び道具でしかないボス
トンシェイカーを流用するとどうなるのか。
彼らと同じように大道芸人然となるのか。
いえいえ、全くその様にはなりませんでし
た。これがまた至って地味な物ものでして。
フルーツをシェイカーの中で直接潰し、酒を
注いで氷を詰め、シェイクするだけです。
酒を回したり背面キャッチしたりなどの
パフォーマンスは一切ございません。まず
出来ないし 笑 しかし、このボストン
シェイカーはよく働いてくれます。ハンド
ジューサーなどで潰してもあまりジュースの
取れないフルーツ類。桃、リンゴ、キウイフル
ーツなども、スリ棒(ペストル)を使い、
シェイカー内で直接潰し、酒を注ぐ事でより
フレッシュ感のある、フルーツカクテルを
作る事が可能です。普通のシェイカーですと、
その形状や材質により、非常に潰し難いの
ですが、ボストンシェイカーは底面の大きさ
が広めであるのと、ボディ部分がガラスで出
来ていますから、とても軽快にフルーツを
潰す事が出来ます。ストレーナー(濾し器)
はミキシンググラスと兼用ですが、きめの
細かい物を使用していますので、しっかり
と濾してくれます。とにかく、ボストン
シェイカーの流用で、フルーツカクテルでの
仕事の効率は驚くほど上がりました。
もちろんお味の方も格段に良くなります。
これ、昔は大変でした。サラシやら茶漉しを
駆使して丁寧に潰し、やっと取れても雀の涙
程度の量。時間は掛かるし鮮度も落ちる。
私がボストンシェイカーを流用する様になっ
たのは、13年程前からですが、今では
手放せないマストアイテムとなりました。
マティーニ、マンハッタンなどで使う
ミキシンググラスです。
ストレーナーはボストンシェイカーと兼用
で使っています。当店では今のところ三つ。
どれも気に入って使ってはいますが、使い
勝手の良さもあって正面左から順に使用
頻度が多くなります。残念ながら右のミキ
シンググラスはあまり使わないのですが、
実はこちら、約三十年前に、私がバーテン
ダーを目指すと親類に伝えたところ、援助
すると言って買い与えてくれたものです。
まさか未だに使っているとは思わないで
しょうね 笑
メジャーカップ達。こうして並べてみると
民芸品の様に見えますね 笑 正面左がU字
カップ。これをメインに使います。昔から
このU字カップが気に入っていまして愛用
していますが、このメジャーカップはとに
かくすぐ壊れます。ちょっとした衝撃が
加わると、上下が分解して何とも形容し難い
間抜けな姿に、、。注いでいる時に取れて
しまってグラスの中にボチャン。というのも
何度か経験があります 笑 瞬間接着剤で
接合する作業をお客様に手伝ってもらう事も
ままありますね 笑 変わって右側のメジャ
ーカップはとても巨大です。60ml と90ml
の組み合わせ。急いでいる時にはとても重宝
します。そして真中のメジャーカップは、
先のシェイカーの様に、お気に入りではある
が、使い勝手が悪すぎてカウンターに並んで
いるだけの観るメジャーカップです。ただ、
フォルムが非常に美しい。こちらは確か
創吉さんで購入しました。
私は目分量でのメイキングをほぼしません。
それが職人技などという、矜恃も皆無です。
人間の感覚なんてあてになりませんからね。
体調にも左右されがち。昔、某有名店で
目分量でのショートカクテルを頂き、そこで
決心したのです。自分ではやるまいと。
それに、メジャーカップという器具が私は
好きなのです。見ていて飽きません 笑
アイストング大です。主に丸氷など、
大きめの氷を掴むのに用います。
そしてアイストング小。フルーツや
小さめの氷を掴むのに使用します。
アイストングといえば持ち方なのですが、
私は画像にもある通り、外側から持つように
しています。これはまだ私が駆け出しの
頃に先輩から教えられました。見ていて
普段から思うのですが、バーテンダー以外、
ほとんどの方が内側から持ちます。これは
その先輩曰く、クラブ持ちと言って、ホス
テスさんの持ち方なんですって。我々は
プロなのだから、こういった点で差をつける
といった調子でした。その当時私はど素人
でしたから、ほとんど刷り込み状態でこの
所作を覚えましたが、もう名前も覚えてい
ないその先輩に、今では感謝しています。
まあ、持ちやすいですよ。氷が大きかったり
でトングを広げる際に、薬指でトングを
広げるのですが、この作業は内側から持って
いては出来ませんから。理にかなっています
よね。
バースプーンですね。何の変哲もない
ただのバースプーンです。これは写真が
下手くそなので写っていませんが、大体の
場合、反対側はフォークになっています。
よくお客様にフォークの部分は何に使うの
ですかという質問を受けますが、人それぞれ
ですね。私の場合、フルーツを刺したり、
レモンスライスなどを飾る際に使います。
バースプーンでステア(混ぜる)する作業は
、メイキングの基本で、バーテンダーが
一番最初に練習する作業です。スプーンの
背の部分を常に外側に向けて回します。
簡単そうで、意外と難しいですよ。
そして、アイスピックと、氷用に使っている
蛸引き包丁です。短いアイスピックは主に
丸氷を削る時に使います。長い方は大きな
氷を割る際に役立ちますね。こちらのアイス
ピック。私の記憶が正しければ、2016年
あたりから市販されるようになったと思い
ます。一目惚れでした。全身がステンレス
加工されていて、正直持ち手の部分が軽すぎ
て最初のうちは使い辛かったのですが、もう
慣れしかないですね。仕方がない。基本、
美と利は共存出来ないのです。そして蛸引き
はグローバルです。これは二十年愛用して
います。氷用に牛刀や刺身包丁を使うバー
テンダーは数多くいます。私は主にロング
カクテルやシェイク用のかち割り氷を割る
際に使いますが、スイカやメロンなど、少し
大きめのフルーツ類を切り分けるのにも
役立てています。刀身が長いので、ペティ
ナイフより楽にいけますよ。ただ、とにかく
長いので、置き場所に困りますがね。その点
牛刀は刀身の長さが氷を割るのにもちょう
ど良いのでしょうね。よく見かけます。
これもまた、好みで選んだ分、利便性は
低くなっています。よく考えてみれば、私は
そのような物ばかりを使っているような
気がします 笑 いいのです。気に入って
いるのであれば。
さて、今回は酒とは直接関係のないバーツ
ールについてお話しさせて頂きました。
弘法筆を選ばずとはいいますが、これは飲食
に限らず、結局のところ、仕事の出来る
方は良い道具。もしくは相性の良い道具を
使っているものです。バーツールの善し悪し
だけでは店やその人の技量は推し量れません
が、見直す事で仕事の質は明らかに変わりま
す。直して使える物は長く使い、新しくする
物は気に入った物を使う。眼鏡や靴と同じで
す。日々、実りのある未来を見据え、地に
足つけて歩いて行きたいものです。
では、また、、